老婆と妖精



エシリス・ケルスは絶望的な気分を味わっていた。
目の前に広がるのはほこりと暖炉の燃えかすと灰で散らかった悪趣味な部屋。
エシリスの部屋ではない。エシリスの母の部屋だ。これを昼までに片付けなければいけない。
「いま、10時30分。」
自分でも気付かずに口に出す。
これ(・・)を11時までに片付けろって?」

エシリスは幸せな家に生まれたとは言えなかった。いや、全くの不幸な家に生まれたといって良かった。
父も母も酒飲みで、エシリスにした良いことといえば、生まれてすぐに祖母の家に放り込んでくれた事ぐらいだろう。
祖母は本当にいい人だった。いい人ほど早く天国に行くというのは当たっているなとエシリスは思った。
早く家を出たいと何度も思い、両親に言いたいと何度も思ったが、エシリスはまだ16歳だった。
この国では17で働けるようになっている。今出て行ったら、あと3ヶ月どうやって暮らしていくのか。
『あと3ヶ月・・・たったの3ヶ月。』そう思ってずっと我慢してきた。
その3ヶ月が、やっと『あと1ヶ月』になった。3ヶ月よりずっと短い。本当にあとちょっと・・・。

考えていたら、時間はすぐに経ってしまう――とりあえず、部屋を片付けてしまおう。
エシリスは、せっせとごみをごみ箱に放り込み始めた。

部屋は無事に片付き、客もこの家がスバラシク綺麗なのを確認し、十分に満足して帰っていった。
エシリスも遅い夕食を済まし、今日が比較的マシな日であったことに満足して眠りにつくことが出来た。

そんなある日のこと・・・。
父の「薪を拾って来い命令」により、エシリスは森に向かっていた。
森についても、すぐには立ち止まらない。迷わないように森の外が見える程度の所まで進む。
3月、この地域では雪がとけてくる頃だが、まだまだ寒い。

・・・・・・スゥッ・・・・・・

「・・・え?」

思わず振り返った。今、目の端に何か光が映ったのだ。
気のせいか・・・。

・・・・・・ススッ・・・・・・

「・・・疲れてるのかな?」
薪をもって帰るための"薪背負い"を下におろすと、

「・・・・・・。」

・・・蝶?
目の前に蝶の羽があった。
「そんな・・・まだ3月なのに」
目をずらしていくと、・・・人?
『・・・。』
「・・・なっ・・・なっ・・・!!」

『・・・おもしろ〜い・・・目が青色だぁ。』
・・・妖精だ・・・おばあちゃんから何回も聞いた事はあったけど・・・!!
興味深そうに自分の目を覗き込んでくる。まだ子供らしい。
「ね・・・ねぇ・・・、」
『なに?ねぇ名前は?』
「エシリス・・・いやそうじゃなくて」
『・・・なんで嘘つくの?』
「いや名前はホントだけど・・・あんた・・・」
じ〜っと目を見てくるのでなんだか気持ち悪い。エシリスは自分が対人恐怖症だと言う事にその時気付いた。
「・・・なんなの?」
あっ、しまった・・・この子怒りっぽい子だったらどうしよう・・・。
『なんなのってなんなの?』
「えっ?!なんなのって――」
なんなんだろうか。そう言えばなんなんだろう。
しかたがないので、
「・・・なんなのって事よ。」
と結んだ。
『・・・ふん・・・?』
納得したのかとほっとすると、
『・・・で、本当はなんなの?』
「う〜んと・・・あ、相手の誰かとか・・・なんか調べたい時とかに聞くんじゃない?」
『ふ〜ん。じゃぁエシリスが1つ教えてくれたから、私も1つ教えてあげる。
 私の名前はネピィって言うの。』
「そう・・・で、あんたなんなの?妖精?天使?もしかして悪魔?」
『エシリスが先に教えて。そしたら私も教えてあげる。』
エシリスはこの答えを怪しく思った。なぜなら彼女は一応キリスト教(育て親は古いと言って
バカにしているが)であり、エシリスの行っている日曜学校の聖書には、

"むやみに取引を行ってはいけない。神と取引をしようと思ってはいけない。
悪魔と取引をしてもいけない。悪魔の罠に入り込んではいけないから。"

としっかりと書いてあるからだ。



エシリスは好奇心に勝てなかった。
「あたしは・・・あたしは、ただの人間よ。」
他にどんな答え方があるというのか。
『エシーが教えてくれたから私も教えてあげる。私ね、私妖精とかエルフって言うらしいの。』
らしいって・・・自分でもよく分かっていないのか?
「なんで"らしい"がつくの?」
『エシーが先に教えて。』
う?う〜む・・・。
「人間がそう呼んでいるだけで、自分ではよくわかんない・・・とか?」
『教えてくれたから、教えてあげる。そうなの。』
「そうなのって――」
結局自分で答えを出してしまった。


それからも薪を拾いつつエシリスがネピィに一つ教え、また教えられしていくうちに二人はすっかり仲良くなった。
仲良くなるとますます話が弾み、薪もあっという間に集まった。

エシリスは自立するまで時に両親の目を盗んで、時に薪を拾いに森に出かけ、ネピィと話したり食べられる木の実の種類を
教えてもらったり、ウサギの巣を見せてもらったりしたし、自立してからはネピィと一緒に住んだ。


・・・これはそれから何十年も経ってからのの話だが、ある辺境の森の中に住んでいる老婆は、一緒に住んでいるものがいない
はずなのに誰かと笑いあっていたり、演奏するものの姿が見えないのに楽しげな音楽が聞こえてきたらしい。

またある少女は、二つの光が連れ立つように家を出て森の更に奥の方にふわふわと飛んでいくのを確かに見たと言う。
そしてそれから二度と古い家の光がつく事がなかった。

人々は、老婆は死んで、妖精の世界に旅立っていき、幸せに暮らしているのだろうと語り継いだ。


―――――――――――――――――――――――――
*おわりに*

老人・・・やっと書いたけど・・・なんだか最後の方えんえんと説明しててすまん・・・。
最初からこんな感じにするつもりだったとはいえ(ホントじゃよ)ちょっとせわしなかったかなぁ。
ま、とりあえず・・・お納めくださいませ。遅れに遅れちまってすまんかったな。


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